自民党総裁選を巡って、安倍総理がは自民党としての憲法改正案について、次の国会への提出を目指す考えを党所属議員らに配布した政策ビラで示したとされる(安倍首相:憲法改正の早期実現に意欲-総裁選向け政策ビラ)。
憲法が「不磨の大典」だと主張する気はないが、どんなことも目的(理由)を持ってなされるのであって、憲法を改正する際にもこの目的(理由)がしっかり検証される必要がある。
ここでは、その中でも「自衛隊の明記」について考えてみる。
1.明記が必要だする論者の論拠
憲法に自衛隊の位置づけが必要だという理由に以下の主張がある。
「核・ミサイルを開発する北朝鮮、沖縄県の尖閣諸島領海周辺での船舶航行を繰り返す中国の脅威がある中、現行憲法で日本を守ることができるか」「有事には命をなげうって国を守ることを誓い、災害派遣でも活躍する。そんな人たちを違憲と言われる状態に置いておくのはおかしい」自衛隊位置付け明確に/気象予報士・女優 半井小絵さん
この主張は明記賛成論者の一般的な見解ではないか?「これまでにない重大かつ差し迫った脅威」(北朝鮮)、「力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的ともいえる対応を継続させている」(中国)と、政府の平成30年度版防衛白書と論調が同じである。
しかし、指摘されている北朝鮮や中国の脅威というものをよくよく考えてみると、国民が困惑するほどの現実ではない。一時的な頑丈な建物への避難にとどまっている。他方で、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨による「避難」は大規模で、長期に及んでいる。これに比べたら中国や北朝鮮の脅威は、政府に煽られた危険であり、少しも現実的でないことが明確だ。
しかも指摘されている中国・北朝鮮の脅威は各国の外交努力で減少しつつある。防衛力整備の賜物ではない。
また、国民は有事と災害を明確に区別して判断している。災害救助には大変感謝しつつも、有事派遣には躊躇を覚える国民が少なくないと思われる。上記の論者のように「有事」と「災害派遣」を一緒にして、だから明記が必要だという主張には論理の飛躍がある。
2.明記論者の本当の狙い
これら論者に共通しているのは「脅威」には「武力がNO1」という認識であろう。そして「憲法への明記」によって堂々と武力を拡大させることが目的だと思われる。なぜならば、論者は、憲法に自衛隊を明記することだけで単純に国が守れるとは思っていないはずだし、明記しなくとも防衛力は確実に拡大してきているにもかかわらず、あえて憲法への明記をしなければならないと主張しているからだ。
これを隠しながら、聞こえの良い脅威論と災害派遣貢献論を振りかざして、明記すべきと主張するのは国民を欺くものだ。
有事を避けようとするのに単に武力を拡大すればよいというものでもないことは、北朝鮮を見ていれば明らかである。北朝鮮は、核を持たなければ自国を守れないことを理由に、核開発を実行したのである。「自国のことのみに専念し」(日本国憲法前文)た結果なのである。
明記論者が「自国のことのみに専念」して危うい未来を切り開かねばよいが。
3.自然災害への対処能力こそ国を守る
政府は、どんなことをしてもイージスアショアを秋田と山口県に設置しようとしている。その経費は1基約1340億円とされ、配備から30年間の経費は4664億円と試算している(陸上イージスの導入経費 青天井で膨れ上がる危険)。
しかし、毎年起こるようになった自然災害への対処こそ優先されるべきだろう。西日本豪雨後の台風21号による被害など、1年のうちに何度も災害が発生することも経験した。
- 阪神・淡路大震災(1995年)=約10兆円
- 東日本大震災(2011年)=16兆9千億円
- 熊本地震(2016年)=3兆7580億円(熊本県)、
- 北九州豪雨(2017年)=2200億円超(九州豪雨被害、2200億円超 福岡・大分県 )
- 西日本豪雨(2018年)=農林水産業だけで2455億円
また南海トラフの想定される被害額は1410兆円で「国難」級の災害となると警告されている。同時にインフラ耐震化でその損害額を3〜4割減少されるとも考えられている(南海トラフ被害、20年間で最悪1410兆円 土木学会が推計 インフラ耐震化で3~4割減)。
更に、これからは自然災害からの復旧だけではなく、自然災害が起こらないような地球温暖化への対処にも本気で取り組むべきである。各方面での温暖化を防止する施策とその研究費だけでも莫大な費用が必要なはずだ。
日本の不沈は災害への対処能力を高めることにかかっているというべきである。イージスアショア配備にうつつを抜かしている余裕はないはずである。